遺言
遺言書を作成しておくことで、誰にどういった財産を承継させるかといったことを決めておいたり、大切な人へのメッセージを残しておくことができます。
遺言書はきちんと作成することが大切です
遺言書は遺言者が死亡してはじめて効力を発揮するものです。そして、遺言書はその効力が発生した後に作成の経緯や不明確な部分を遺言者に確認することができません。このように遺言書は事後的な確認が不可能であるため、「正しく」「きちんと」作成される必要があります。そこで、民法は遺言書の作成にルールを設け、そのルールに従っていない遺言書は無効、あるいは一部効力が否定されるという取り扱いをしています。
大切な人のためにせっかく遺言書を作成したのに無効となってしまっては、せっかくの想いが実現しないばかりか、残された方たちに無用の争いをさせてしまうことにもなりかねません。
遺言書を正しく作成し、確実に想いをつたえるために、遺言書を作成される際は専門家にご相談されることをおすすめいたします。
遺言書を作成する必要性が高い方
特に、次のような場合は遺言書を作成しておく必要性が高いといえます。
・お子様がいない場合
・推定相続人以外に財産を分けたい場合
・推定相続人に判断能力が不十分な方がいる場合
・事業を行っている場合
・推定相続人間でトラブルが予想される場合
遺言書の作成にあたって
遺言書には、いくつかの種類があります。
また、遺言書の内容を考える上でも注意しておくべきこともあります。
以下、どのような種類の遺言書があるのか、遺言書の内容を考える上での注意点はなにかといったことをご説明いたします。
遺言書の種類
よく作成される遺言書として2つの種類の遺言書があります。
公正証書遺言と自筆証書遺言です。
さらに、自筆証書遺言には、遺言書を法務局で保管してくれる自筆証書遺言保管制度があります。
それぞれ、どのような特徴があるかについて、概要をご説明いたします。
公正証書遺言
遺言書の方式として、まず公正証書遺言があります。
これは証人2人の立会いのもと、遺言者が公証人に遺言内容を口授し、公証人がこれを受けて遺言書を作成するという方式の遺言です。民法の規定では遺言者が口授するとされていますが、実際には、事前に公証人とやり取りをして遺言書の原案を作成しておくため、遺言者と公証人はこれを口頭による受け答えで確認して押印するといった形になります。
公正証書遺言のメリット
公正証書遺言の最大のメリットは、公証人によって遺言者の本人確認や意思確認がなされているため無効になりにくいという点です。
遺言書はその内容如何によって、不利益を受ける(期待していた利益を得られない)方もいらっしゃいます。そういった場合に「その遺言書は無効だ」という争いがおこることがしばしばあります。
例えば、「遺言書は誰かが勝手に書いたニセモノだ」といった主張や「遺言者は認知症だったため、真の意思に基づく遺言ではない」「遺言者を介護していた者が立場の強さを利用して無理やり書かせたもので、真意に基づくものではない」といった主張がされ、遺言書は無効だとして争われてしまうことがあります。
しかし、公正証書遺言は、公証人が本人確認を行うことで遺言者がニセモノではないことを確認しており、また、遺言内容についての意思確認も行うため真意に基づくものであることも確認した上で遺言書が作成されます。加えて、遺言書の作成には証人も2人立ち会います。
したがって、公正証書遺言は無効となりにくい遺言書の方式であるということが言えます。
また、公正証書遺言は検認が不要というメリットもあります。
後述する自筆証書遺言では、遺言書の効力が発生したとき(遺言者が亡くなったとき)は、原則として検認という手続が必要となり、遺言書の形式的な作成ルールが守られているかどうかを裁判所で確認しなければなりません。公正証書遺言は、この検認という手続きが不要となるため、相続についての各種手続を速やかに行うことが可能となります。
さらに、公正証書遺言のメリットとして、紛失等に対処できるという点もあげることができます。
公正証書遺言の場合、遺言書の原本は公証役場に保管され、遺言者には正本と謄本が発行されます。原本は公証役場にて厳重に保管されるため、仮に遺言者が遺言書を紛失してしまったり、ひどく破損してしまった場合にも正本の再発行や謄本によって対処することが可能です。また、遺言者が亡くなった後に、推定相続人が遺言書を見つけられない場合でも同様に正本の再発行等によって対処することができます。
また、原本が公証役場に保管されるという方式であるため、遺言書が誰かの手によって改ざんされたり、隠匿されるおそれがないということも公正証書遺言のメリットといえます。
公正証書遺言のデメリット
一方、公正証書遺言のデメリットとして、費用がかかるという点があげられます。
公正証書遺言は、財産額に応じて公証役場に手数料を支払う必要があります。また、公証役場まで出向くことが難しい方は、公証人に出張してもらうことも可能ですが、その場合も出張費用が発生してしまいます。
これらの費用がかかってしまうことは公正証書遺言のデメリットといえるかもしれません。
自筆証書遺言
遺言書の2つめの方式として自筆証書遺言があります。
これは、遺言者が遺言書の全文、日付、氏名を自書し、押印をすることで作成するという方式の遺言書です。なお、近年の民法改正により、財産目録の部分については、パソコン等で作成できることとなりました。
自筆証書遺言のメリット
自筆証書遺言のメリットとしては、費用が低額であるという点です。
専門家に依頼せずに作成した場合、費用はほぼかかりません。
また、方式さえ間違わなければ、思い立ったときにすぐに遺言書を作成できるという手軽さもあります。
低費用で手軽という点は、自筆証書遺言のメリットであるといえます。
自筆証書遺言のデメリット
一方、自筆証書遺言のデメリットとしては、無効となってしまうおそれがある、あるいは無効を争われるおそれがあるということがあげられます。
自筆証書遺言は公正証書遺言と違い、公証人のような専門家が遺言書作成のルールを確認しながら作成するといったものではありません。このため、遺言書作成のルールに反した書き方をしてしまい、無効となってしまうケースもあります。
また、自筆証書遺言は、誰にも知らせずに作成し保管しておくことも多く、遺言書の作成状況が誰にも分らないといったケースもあります。そうすると、「ニセモノではないのか?」といった主張や「認知症がかなり進行した状態で書いたものだ」「無理やり書かせたものではないのか」といった主張がなされる可能性もあります。
このように無効となるおそれがある、争われるおそれがあるといった点は、自筆証書遺言の最大のデメリットといえるかもしれません。
また、上述のように、誰にも知らせずに遺言書を作成し保管しているケースも多いため、せっかく作った遺言書を遺族に見つけてもらえないといったことや、相続人が自分に都合の悪い内容の遺言書を見つけ、改ざんしたり、隠匿するということも考えられます。
このような点も自筆証書遺言の大きなデメリットであるといえるでしょう。
さらに、自筆証書遺言は、原則として検認という手続が必要となります。これは、遺言者の死亡後に、裁判所において遺言の作成ルールが守られているかを確認する手続です。検認は、期日を指定して、相続人が出席して行われるものであるため、その分手間と時間を要してしまいます。
遺言書保管制度
令和2年7月から、自筆証書遺言を法務局が保管してくれる制度が始まりました。これは、遺言者が作成した自筆証書遺言を所定の添付書類とともに法務局に提出し、保管の申請をすることで、法務局がその遺言書を保管してくれるものです。
これによって、自筆証書遺言のデメリットである遺言書を改ざんされるおそれや隠匿されるおそれがなくなります。
また、遺言書の保管申請がなされた際に、法務局が遺言書の形式的な作成ルールについて確認を行うため、形式違反による無効は避けられます。そして、法務局が形式面の確認を行うことから、裁判所での検認の手続は不要となります。
加えて、保管申請の際に申し出れば、遺言者の死亡の際に特定の者に遺言書が保管されていることを通知してもらうこともできるため、この通知制度を利用すれば遺言書の存在に気づいてもらえない・発見してもらえないというリスクは低くなります。
さらに、法務局による遺言書の保管は比較的低額の費用で利用できるため、公正証書遺言を作成するよりも費用面でメリットがあるといえます。
このように、メリットも多い制度ですが、使い方に注意が必要な部分もあります。
まず、法務局は、遺言書の内容面は確認しないため、公正証書遺言ほど無効となるおそれや無効が争われてしまうおそれが低くない点は通常の自筆証書遺言と変わりません。
また、相続人が法務局に保管された遺言書を交付してもらおうとする場合、相続人は法務局に対して遺言書情報証明書という書面の交付を請求することとなりますが、この遺言書情報証明書の交付請求をするために必要な書類の収集にかなりの労力を要する場合があります。必要な書類として、遺言者の出生から死亡までの戸籍一式、相続人全員の現在戸籍、相続人全員の住民票といったものがあげられますが、家族関係によってはこれらの書類を収集することが非常に大変という場合もあります。
したがって、自筆証書遺言書保管制度を利用する場合は、相続人に負担をかけることになるかもしれないということを十分に考慮すべきです。
遺言書の内容
ここまで、主な遺言書の種類をご紹介してきました。
では、実際に遺言書を作成する場合、どのような内容にすればよいのか悩まれる方もいらっしゃるかと思います。
そこで、遺言書作成の際に留意しておくべきポイントをご紹介いたします。
法定相続分
まず、現状の整理として、遺言書を作成していない状況でご自身が死亡した場合、誰がどの程度の財産を引き継ぐのかという点(法定相続分)を把握しておくとよいでしょう。
誰に、どれくらいの財産を引き継がせるのか、迷われる場合は参考になると思われます。
遺留分
遺言書を作成するにあたって、もっとも注意すべき点であるといっても過言ではないのが遺留分です。
遺留分とは、簡単にいうと相続人に最低限保障された取り分です。
遺言による財産の分配の仕方がこの遺留分を侵害している場合、遺留分を侵害された相続人は、遺留分侵害額請求をすることができます。
遺留分は、尊属のみが相続人である場合は相続財産の額の3分の1、配偶者や子が相続人の中にいる場合は相続財産の額の2分の1となります。また、遺留分権利者たる相続人が複数いる場合には、この割合に法定相続分をかけた割合の遺留分を有することになります。
たとえば、夫Aが死亡し、相続人が妻Bと子C、子Dである場合に、夫Aが遺言書で全財産である1億円を第三者のEに遺贈した場合、妻Bは1億円×1/2(遺留分割合)×1/2(法定相続分)=2500万円分、子Cは1億円×1/2(遺留分割合)×1/4(法定相続分)=1250万円分、子Dは子Cと同様1250万円分の遺留分を有することとなります。
遺言書を作成する場合には、この遺留分に配慮しておくことで、後に相続人同士が遺留分をめぐって争うという事態を防ぐことができます。
たとえ遺留分を侵害するような財産の引き継がせ方をするとしても、附言事項での説得や生命保険金をうまく活用することで争いが生じる可能性を低くすることも考えられます。したがって、どのような遺言内容にするかにかかわらず、遺留分の侵害がありそうかどうかという点は把握しておくべきであるといえます。
遺言執行者
遺言書の内容を実現するための手続等を行ってくれる人のことを遺言執行者といいます。
遺言書を作成してもそれを実現してくれる人がいなければ、遺言書の意味がありません。たとえば、預金を解約して現金化し、妻に2分の1、子に2分の1の割合で相続させるという内容の遺言書を作成したとすると、これを実現するためには、遺言者の死亡後に銀行で預金口座の解約の手続をしたうえで妻と子それぞれに現金を2分の1ずつ振込んでくれる人がいなければなりません。これを実行してくれる人が遺言執行者です。
遺言執行者は、遺言書に記載することで選任することができます。この遺言執行者は、弁護士や司法書士といった法律専門職だけでなく、財産を譲り受ける受遺者や相続人を選任することもできます。ただ、遺言の内容が複雑であったり、財産が多額である場合や財産譲り受ける者が高齢であるといった場合は、法律専門職に依頼したほうがよいでしょう。
附言事項
遺言書には、法律的な意味のある記載だけでなく、残された方へのメッセージなど法的には効力のない記載も自由にすることができます。このような記載を附言事項といいます。
法律的に効力がないとはいえ、遺言者がどのような思いで遺言書を作成したかといったことや、なぜこのような遺産の引き継がせ方をしたのかといった思いを書いておくことで、相続人が遺言内容の実現に協力的になってくれたり、争いを思いとどまってくれることもあり得ます。
遺言書を作成される際は、ぜひ附言事項を書いてみてください。
遺言書で悩んだときはお気軽にご相談を
このように遺言書は、どの方式の遺言書を作成するか、どういった内容にするか、遺言執行者はどうしたらよいのかといった具合に、様々な事柄に留意し作成していく必要があります。遺言書の作成は、極めてプライバシー性の高いものであるため、身近な人に相談しにくいという面もあります。遺言書の作成で悩んだときは、ぜひお気軽にご相談ください。
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